令和2年  今月の病気

発育性股関節形成不全  (先天性股関節脱臼)

『先天性股関節脱臼』という病名が浸透しているため、生まれつき股関節が脱臼しているというイメージのある病気ですが、最近は、生まれた後の赤ちゃんの抱き方やおむつの当て方が悪いために股関節がうまくできない病気という意味を入れて、『発育性股関節形成不全』 と言われます。

年齢は?

今までは3-4か月健診で股関節の開きが悪いことで見つかることがほとんどでしたが、最近は、3-4か月健診で股関節の開きに異常がない赤ちゃんが、1歳位で歩き方がおかしいということで発見されるケースが増えています。3-4か月健診を受けた後でも、股関節が気になる場合は、遠慮なく相談してください。
歩き方が気になる場合も遠慮なく相談してください

なりやすい赤ちゃんは?

1)女の子 (男:女≒19
2)家族に股関節の悪い人がいる
3)逆子(骨盤位)で生まれた
4)寒い地域または寒い季節(11月から3月)に生まれた
      ・・・・ 衣服でくるまれることで、股関節を自由に動かすことができません
5)向き癖(いつも顔が同じ方向を向いている)がある
      ・・・・ 向き癖があると。向いているのと反対の側の脚が立て膝になったり、内側に倒れたり
       することがあり、これが良くないと言われています

         右を向いている子の場合は、左脚の姿勢をよく見てください

予防方法は?

歩き始めるまで、以下の3点に注意してください。
1)赤ちゃんの脚は、両膝をM字に曲げて、よく動かしているのが良い姿勢です。

    両脚を伸ばしているのは良くない姿勢です。脚の動きを制限するのも良くありません。
    オムツをきつくしめて、脚を伸ばすのは×です。
   「横抱きスリング」で脚を伸ばした姿勢を続けるのは×です
   「あひなまき」やきつい服で脚が自由に動かせないようにするのは×です
2)抱っこは:正面抱き「コアラ抱っこ」をしましょう
    赤ちゃんを正面から抱くと、両膝と股関節が曲がったM字型開脚でお母さん(お父さん)の胸に
   しがみつく形「コアラ抱っこ」になります。

   「正面抱き用の抱っこひも」も○です。
3)向き癖のある赤ちゃんに対しては、向き癖方向と反対側の脚が外側に開脚するようにします
   (例)右側ばかり向いている赤ちゃんの場合、右側の頭から身体までをバスタオルなどを使って少し
     持ち上げて、左脚が外側に倒れて開くように工夫してみましょう。



コロナウイルス感染症

 コロナウイルスは普通に流行している風邪のウイルスです。一年中みられますが、冬から春にかけて流行のピークがあります。
 人に普通に流行しているコロナウイルスは4種類あります。感染は乳児期から始まり、ほとんどの子どもは6歳までにコロナウイルスに感染します。ほとんどは軽症ですが、高熱を引き起こすこともあります。成人までにほとんどの人がコロナウイルスに対する免疫ができます(成人の抗体保有率は90100%)が、再感染がみられます。コロナウイルスが小さな変異をするためと考えられています。
 コロナウイルスは人以外の色々な動物に感染しますが、動物ごとに固有のコロナウイルスが存在し、他の動物に感染することは殆どありません。要するに、猫には猫固有のコロナウイルスがあり、犬には犬固有のコロナウイルスがあり、風邪症状を起こしますが、人には感染しません。
 今回の新型コロナウイルスのように、他の動物のコロナウイルスが人に感染すると重症肺炎を引き起こすと考えられています。
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2002年に流行したSARS(サーズ)はコウモリのコロナウイルス
2012年に発見されたMERS(マーズ)はヒトコブラクダのコロナウイルス
今回の新型コロナウイルスもコウモリ由来と考えられています。



流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)

 現在、おたふくかぜが流行しています。先進国でおたふくかぜワクチンが定期接種(無料)でないのは日本くらいです。耳下腺が腫れた場合、「おたふくかぜ」なのか「反復性耳下腺炎」なのか診断が難しい時があります。自費(当院では6000円)になりますが、ワクチンで予防してください。

原因:ムンプスウイルスによって起こる感染症です。人間のみに感染するウイルスです。
   他の人にうつす時期は、耳下腺が腫れる2日前から5日後までです。

症状:2~3週間の潜伏期間の後、突然に耳の下にある耳下腺と顎の下にある顎下腺が腫れます。
   左右両方腫れることも、片側だけ腫れることもあります。
   腫れのピークは3日目頃で、710日ほどで引きます。
   耳下腺が腫れると とても痛く、特に噛む時に痛みが強くなります。
   熱は始めの34日間みられますが、軽いとほとんど出ません。
   感染しても20%くらいの人は症状が出ません(不顕性感染といいます)

   ※熱がなく、片方の耳下腺しか腫れなかった場合は、反復性耳下腺炎の可能性があります。
    症状だけで鑑別するのは困難です。
    耳下腺が腫れるとおたふくかぜの可能性があるため、学校を休まないといけなくなります。

治療:対症療法になります
   痛みが強い時には、痛み止めを使います。当院ではポンタールシロップを4~5日処方しています。
   解熱剤はアセトアミノフェン(カロナールまたはアンヒバ坐薬)を使います。
   冷えピタ、アイスノンなどで耳下腺を冷やしてもかまいません

家庭で注意すること
 ①すっぱいものや、よく噛まないといけない食べ物は避けましょう。あまり噛まずに つるんと飲み込めるものを与えてください。
 ②高熱があるときや痛みが強い時は入浴を避けてください。
 ③学校、幼稚園・保育園は発症してから5日間は出席停止になります。

合併症に注意!!
髄膜炎
  3~10%の頻度でウイルス性髄膜炎をおこすことがあるので注意が必要です。髄膜炎は熱が下がってきた頃に多く見られます。症状は頭痛と嘔吐です。
  発病後に元気な子どもさんは、熱が下がったからといってドンドンと飛び跳ねて遊ばないようにしてください。調子にのって飛び跳ねていると、翌日から頭痛と嘔吐で苦しむことになります。
 髄膜炎が疑われたら、腰の背骨の間に針を刺し(腰椎穿刺)て、髄液をとって調べます。入院治療が必要で、安静、点滴、鎮痛剤などにより数日で自然治癒します。
 髄膜炎にならないようにするために、発症後5日間は家で大人しくしておきましょう。

難聴
 0.1%(1000人に1人)の頻度で難聴が起こります。多くは片側だけですが、まれに両方におこります。一番の問題は、難聴が高度で、一生治らないということです。
 おたふくかぜに罹っている最中に、「耳鳴りがする」「耳の聞こえがおかしい」と感じたらすぐに受診してください。但し、難聴になるのを止める治療は確立されていません。
 自宅での簡単なチェック法 ・・・・ 指をこすった音を聞かせる方法です、3歳以上なら可能です
  保護者と子どもさんが座って対面します。
  保護者が右手で、子どもの左耳の近くで指をこすって音をたてて、「聞こえる?」と聞いて、「音が聞こえたら左手を挙げるように」と指示します。
  
保護者が左手で、子どもの右耳の近くで指をこすって音をたてて、「聞こえる?」と聞いて、「音が聞こえたら右手を挙げるように」と指示します。
  保護者が無言でどちらかの指をこすって、子どもが手を挙げるかどうか確認しますこれを毎朝行ってください。
 精巣炎、卵巣炎
  成人男子が おたふくかぜに罹ると高率に精巣炎を起こします。精巣が痛くなり、歩けなくなるほどです。通常片側しか起こらないので、不妊になることはまずありません。思春期以降の女性で卵巣炎を起こすことがあります。
この他に、膵炎、関節炎などあります。 

予防はワクチンで!
 おたふかかぜは やっかいな合併症を起こすことがあるので、予防接種をお勧めします。
 有効率は90~95%です。現在は1歳と小学校入学前の2回接種が推奨されています。
 以前、ワクチンによる髄膜炎の副反応が問題になりましたが、発生率は0.01%で、自然感染(310)に比べてかなり低率です。
 おたふくかぜは、罹った人に接触後すぐワクチンをしても発症は予防できません!!

 あらかじめ1歳になったらワクチンを受けておきましょう。
(
参考:麻疹と水痘は罹った人に接触後72時間以内にワクチンすれば発症予防が期待できます。)



反復性耳下腺炎

 耳下腺が何度も腫れる子どもさんが います。こういうケースのほとんどが この「反復性耳下腺炎」です。90%が10歳までに自然に治ります。(耳下腺が腫れなくなります)

原因:耳下腺でできた唾液を口の中に送る管(ステノン管)の中に、口の中の細菌が入り込んで感染することで、耳下腺の炎症を起こします。
    ステノン管に細菌が入りやすい構造をしているため、何度もかかります。
症状:耳下腺が腫れますが、おたふくかぜよりも症状が軽く、以下のような特徴があります。
多くの場合腫れるのは片方だけ  何度も繰り返す  熱は出ない、出ても微熱  痛みは軽いことが多い  ⑤23日で治る  他の人にうつらない・・・通学は可能

※熱がなく、片方の耳下腺しか腫れなかった場合は、「おたふくかぜ」か「反復性耳下腺炎」かを症状だけで鑑別するのは困難です。 何度か腫れるとわかりますが、1回目と2回目はわかりません。
耳下腺が腫れると、「おたふくかぜ」の可能性があるため、学校を休まないといけなくなります。
耳下腺が腫れるたびに園や学校を休むようでは困りますので、血液検査で「おたふくかぜ」のウイルス抗体検査を行なって「おたふくかぜ」に免疫があるかどうか調べます。免疫があれば既におたふくかぜに罹っているので休まなくてよいことになります。免疫がなければワクチン接種を行います。

治療:ペニシリン系抗生剤を処方します。痛みが強い場合は痛み止めを出します。

家庭で気を付けること
 痛みが強い時は、硬い食べ物、酸っぱい食べ物は避けます。少し冷やすとよいでしょう。入浴はかまいませんが、耳下腺を温めすぎないようにしてください。
予防:普段から きちんと歯磨きをして口の中を清潔にしてください。
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虫歯は治療してください。